DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例26選を紹介
日本の企業の大多数が抱える課題や問題は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進なくして解決するのは難しいと言われています。
政府の後押しもあり、国内では多くの企業がDX推進に取り組んでいます。
ですが、中小企業を中心に「そもそもDXとは何か」「DX推進に成功した企業はあるのか」といった疑問を抱く企業も少なくありません。
本記事ではDXの概要や必要性、メリット・デメリット、そして成功させるためのポイントと共に、DX推進に成功した事例をご紹介していきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
経済産業省ではDX(デジタルトランスフォーメーション)について、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。[注1]ここでいう「デジタル技術」とは、ITツールの導入だけに留まりません。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)なども意味します
DXはこれらの新しいテクノロジーや膨大なデータを駆使し、従来とは異なる革新的なビジネスの開発や新しい製品・サービスの確立を実現することで、今後ますます進化するデジタル社会を生き抜く力を身につけることを目的としています。
[注1]経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf(参照:2022-10-28)
DXが必要とされるようになった背景
国内においてDXが必要とされるようになった背景は大きく分けて3つです。
1.消費者の行動形態の変化
インターネットの普及にともない、オンラインでのサービス提供(インターネットショッピングや動画視聴など)は年々拡大傾向にありました。ですが、近年は特に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けてその傾向がますます顕著になっています。
総務省が公開している令和3年版の情報通信白書によると、インターネットショッピングを利用する世帯の割合は、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年3月以降に急速に増加し、二人以上の世帯の約半数以上が利用する状況が続いているということです。[注2]
対面販売の場合、競合相手は近隣の同業他社のみが対象でした。しかし、オンラインサービスの普及によってその範囲が国内、ひいては世界にまで広がりデジタル技術を駆使してより魅力的な商品・サービスを提供する必要性が生まれています。
▼総務省「令和3年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd121310.html
[注2]総務省「令和3年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd121310.html(参照:2022-10-28)
2.少子高齢化による人手不足
現代の日本では少子高齢化によって深刻な働き手不足に陥っています。少ない人手で事業を円滑に進めていくためには、これまでアナログで行っていた作業をデジタル化し、生産性を向上させなければなりません。
3.2025年の崖
「2025年の崖」とは、DX推進を阻む課題を解決できなかった場合に生じる経済損失を指摘した問題のことです。古くからある企業の多くは、既存システムが事業部門ごとに構築されています。これによって「全社横断的なデータの活用ができない」「システムがブラックボックス化している」などの問題につながっています。
このような状況に対して中小企業の約7割がDXに対して「実施していない、今後も予定なし」となっています。[注3]
もしこれらの課題が解決されなかった場合、2025年以降、現在の約3倍にあたる年間最大12兆円もの経済損失が生じる可能性があると言われています。[注3]崖を解消するために技術刷新に取り組むなか、中小企業が取り組まないと、今後大手企業とスムーズに取引できないといった問題が生じる可能性があります。2025年の崖問題を解決するためには、DXが必要不可欠であり、特に日本企業の9割以上を占める中小企業のDX推進が急務となっているのです。
▼経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
[注3]総務省「和3年 情報通信白書のポイント」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html
【DXグランプリ2022選出】DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例
経済産業省は毎年、東京証券取引所および情報処理推進機構と共同で「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」を選定しています。2022年は33社がDX銘柄に選定されましたが、中でも特に優れた取り組みをおこなった企業として「DXグランプリ2022」に選定されたのが、日本瓦斯株式会社と中外製薬株式会社の2社です。ここからは2社それぞれのDXの成功事例をご紹介します。
▼経済産業省「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を選定しました!https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220607001/20220607001.htm
1.日本瓦斯株式会社
日本瓦斯株式会社ではデジタル技術の活用およびデータ収集などによって、エネルギー業界全体に対しエネルギー託送の仕組みを提供しています。
具体的には、ガスメーターのオンライン化を実現するIoT装置「スペース蛍」の導入によってガスの使用状況をリアルタイムで把握することが可能になりました。以前は使用料の予測に基づいてエネルギーの配送を行っていましたが、実績に基づいた運用を行うことで配送にかかるコストやCO2排出量の削減に成功しています。
また、「スペース蛍」で取得した使用料データは「ニチガスストリーム」と呼ばれるデータ収集統合基板に集約。これによってAI解析による最適な製造計画の算出が実現できています。
▼日本瓦斯株式会社「ニチガス、DXへの道のり」
https://www.nichigas.co.jp/for-company/dx
中外製薬株式会社
中外製薬株式会社ではAIを始めとする最先端のデジタル技術を活用することで、多様かつ大量のデータ取得・解析を実施しています。
従来の創薬プロセスでは、新薬開発までに10年以上の歳月がかかると言われています。ですが、中外製薬株式会社はDXによって創薬プロセスを革新することで、プロセスの短縮および新薬開発の成功確率の上昇を目指しています。
また、デジタルバイオマーカーの開発やウェアラブルデバイスなどから取得した患者の方の生理学的データを組み合わせた解析を実施。これにより、患者の方の体調をより正確かつ深く理解し、一人一人に適したな治療を行う個別化医療の実現に貢献しています。
▼中外製薬株式会社「デジタルトランスフォーメーション “CHUGAI DIGITAL”」
https://www.chugai-pharm.co.jp/profile/digital/
【業種別】DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例26選
上記でご紹介した企業以外にも国内にはDXの推進に成功し、一定の実績を挙げている企業が複数あります。ここでは参考としてDX推進に成功した事例を26個、業種別に厳選してご紹介します。
製造業
DXに取り組み、一定の効果を挙げた製造業の企業を4つご紹介します。なお、製造業におけるDX取組事例については経済産業省が公開している以下の資料も参考になります。
▼経済産業省「製造業DX取組事例集」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
BMW
ドイツの自動車メーカー「BMW」は、2025年までに顧客体験のDXに年間数億ドル規模の投資を行う方針を固めました。
具体的な取組みとしては、非接触型の販売プロセスを導入することにより、世界60ヶ国以上に展開するセールス担当者が場所を問わず顧客にアドバイスを提供できる体制を実現しています。製品の購入後も運転支援システムやライト・音響パッケージ、サスペンションなどのデジタルアフターセールスをアップグレードとして設定できる車両機能を搭載しています。
さらに、顧客がBMWグループと個人データを共有して顧客体験を最適化するオプションもあります。例えば次のような機能が利用可能になっています。
スマホを車のキーとして使う
AI音声アシスタントを車両と統合する
これによって、より便利なカーライフの実現をサポートすることに成功しています。
株式会社ブリヂストン
大手タイヤメーカーである株式会社ブリヂストンでは「より大きなデータで、より早く、より容易に、より正確に」をモットーに、長年培ってきた匠の技とデジタルの融合を目指しています。そのひとつが匠の技を伝える「技能伝承システム」です。塾線スタッフの動きの仕組みをシステムとして構築し、新入社員の技能訓練に活用するものです。
また、ブリヂストンでは事業のあらゆる面でDX化を推進しています。
DXとソリューション事業戦略を担う戦略部門の設置や、各国に設置されているイノベーション拠点の連携を強化、優秀な人材で構成されたDX推進体制の構築といった体質変革への取り組みも実施しています。ブリヂストンは2021年、2022年ともにDX銘柄に選定されていて、こういった取り組みが高く評価された結果といえるでしょう。
味の素株式会社
大手食品メーカーである味の素株式会社では2030年までに「食と健康の課題解決企業」として社会変革をリードする存在になることを目指し、積極的なDX推進を行っています。
具体的な取り組みとしては、話題性の高い情報と生活者の購買履歴などの情報を組み合わせて分析し、顧客一人一人に合ったマーケティングを行う「パーソナライズドマーケティング」やAIなどのデジタル技術を活用した生産性の高い工場「スマートファクトリー」の実現などです。
また、製品の製造から販売までの一連の流れに応じて自動でネットワーク環境が変わるスマートネットワーク化することでより効率的なエコシステムの形成を実現しました。味の素株式会社ではこれらDXを踏まえて新しい事業モデルの変革も目指しています。
株式会社LIXIL
水回りやインテリア・エクステリアなどの建材製品を開発・提供している株式会社LIXILはデジタル化を通じて消費者に寄り添うと共に、従業員の主体性を高めるためのDX化を推進しています。
例えば既存ビジネスの変革として自宅からインターネットを通じてコーディネーターに相談できるLIXILオンラインショールームを導入しています。これによってコロナ禍でも気軽に消費者とコミュニケーションを取れる体制を整えました。また、オンライン上で消費者向けのコンテンツを提供したり、ビジネスパートナーと営業担当者がやり取りしたりする「GROHE X」というデジタルプラットフォームを新設し、社外との接点の強化を実現しています。
一方、DX推進の傍らで、従業員がデジタル技術を使いこなせるようにするためのサポートも実施。ツール開発に必要なソースコードを書かない、もしくは少なくても開発可能なノーコード・ローコード開発で独自のツールを開発し、業務プロセスを改善できる環境を整備するなど、従業員の主体性を向上させる工夫を取り入れています。
化学
化学工業の分野でDX推進に成功した事例を3つご紹介します。
旭化成株式会社
化学をはじめ繊維や住宅、建材など幅広い事業を手がける大手総合化学メーカー旭化成株式会社では、開発期間の短縮やこれまでにない革新的な素材開発を目的としたマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の活用を推進しています。マテリアルズ・インフォマティクスとはAIや統計解析によって素材の研究・開発を効率化することで、従来なら数年かかるところを半年ほどに短縮した開発にも成功しています。
また、MIを活用するにあたってMI技術を取得したMI人財の育成強化も実施。社内クラウド教育システムを構築し、MI人財に対する教育研修の加速化を実現しました。MIを活用すると、研究者の部門を超えたコミュニティも生成されるようになり、互いに切磋琢磨して支え合う風土の醸成にも役立っているとのことです。
富士フイルムホールディングス株式会社
国内の大手精密化学メーカーである富士フイルムホールディングス株式会社では、2014年にICT戦略推進プロジェクトを発足して以降、積極的にDX推進に取り組んでいます。直近では高度なプログラミング知識がなくても、画像診断支援のAI技術を開発できる「AI開発支援プラットフォーム」を国立がん研究センターと共同で開発するなど、AI技術を駆使した医療現場への支援に力を入れています。
また、社内の業務効率化を実現するためにロボティクス技術とAI技術を融合した画期的な業務プロセスの変革を実現。専用ロボットが高速・高画質でスキャンした紙文書をデジタルデータ化。文字認識技術を用いてAIが分類した後、クラウド上で管理するといった一連のプロセスを自動化することに成功しました。人の手を介さない処理を実現することで業務効率が上がるのはもちろん、情報漏えいリスクの低減にも繋がっています。
大塚デジタルヘルス株式会社
大塚デジタルヘルス株式会社は、大塚製薬と日本IBMが共同開発したデータ分析ソリューション「MENTAT」の開発・販売を行う会社です。ほとんどがテキスト情報として蓄積されている精神科医療分野において、膨大な患者データの中から必要なものだけをピックアップし、整然と保存・管理できるようにしました。
具体的には、次のようなことが「MENTAT」ひとつで行なえるようになっています。
薬剤の種類や処方量をグラフにして見える化
カンファレンスに役立つ情報を一画面で表示できるカンファレンスツールの作成
院内のさまざまなデータの集計
膨大なテキスト情報は電子データ化され、必要な情報を必要な時にすぐ引き出せる理想的なカルテの構築に成功しています。
運輸・物流業
運輸・物流業にてDX化に成功した4社の事例をご紹介します。
日本郵便
日本郵便ではより幅広い世代、幅広い地域に簡単かつ快適にサービスを提供できるように「デジタル郵便局」をコンセプトにしたDX化を推進しています。「デジタル郵便局」では、スマホやPCなどWebやアプリを通じていつでもどこでも、リアルな郵便局と変わらない窓口サービスを提供できる環境の整備を目指すものです。
ただ利便性が向上するというだけではありません。
地域やパートナー企業との協力のもと、デジタル技術を活用した新たなビジネス価値の共創にも努めることで、これまでにない画期的なサービスを実現します。デジタル郵便局の新設にあたっては、データやAI、デジタルマーケティングなどのスペシャリストを集め、DX部門と人材育成部門の2部門を設けることで、円滑なDX化の実現と、今後必要となるDX人材の育成の両立に取り組んでいます。
株式会社日立物流
日立グループに属する大手物流会社である株式会社日立物流は、自社が計画した中期経営計画において独自のDX戦略を掲げています。社外向けのDXとしては、原材料や部品の仕入れから販売までの流れであるサプライチェーン上の情報の一元管理・可視化や、IoTテクノロジーを駆使した輸送事業者の業務効率化に着手。一方、社内向けDXとして行なっているのが、業務データや顧客データを集約するデジタル事業基盤の確立、複数拠点の最適運営を実現する倉庫内デジタルプラットフォームの設立などです。
DX化を推進するにあたり、全社員向けのデジタルリテラシー向上、現場のデータアナリスト育成、DX実践部門強化を進めることで、よりスムーズなDX化を実現しています。
日本交通株式会社
ハイヤー・タクシー事業者の日本交通株式会社では、場所を問わずいつでもどこでもタクシーを手配できるアプリ「GO」の開発・提供を行っています。スマホアプリの位置情報機能を活用し、現在位置または乗車位置をタクシー会社に提供することで、希望する場所で確実にタクシーに乗車することが可能です。さらにGO PAYを利用すれば、アプリで事前決済し車内での支払い不要で降車できるため利用者の手間と時間を省けるのはもちろん、ドライバーの業務効率化にもつながります。
また自社の車両にドライブレコーダーを搭載し、走行中に収集したデータを蓄積するデータベースの構築にも着手。標識や制限速度などを地図データよりも早く、かつ正確に確保することで新たなサービスの可能性の幅も広げています。
ANAホールディングス株式会社
全日空を中心とする企業グループであるANAホールディングス株式会社では、コロナ禍における環境変化に対応するため、積極的なDX化に取り組んでいます。
中でも高く評価されているのは、多様な交通サービスと顧客をつなぐMaaSプラットフォームの構築です。MaaSとは公共交通機関と利用者とをITを用いてシームレスに結びつけ利用しやすくする取り組みを指します。
予約した航空便の発着時刻に合わせて経路検索を行える「空港アクセスナビ」や、高齢者の方や障がいを持つ方の旅や移動をサポートする「Universal MaaS」など、航空会社ならではの知見を活かしたサービスの提供により、快適性・安全性の向上を実現しています。
また日常生活でもANAとの接点を持ってもらえるよう、「移動」や「健康」をテーマにしたモバイルサービスの提供をスタート。モバイルサービスを通じて取得した移動データをAIで解析することで、一人一人に適した移動スタイルを自覚してもらうという新たな試みが好評を期しています。
情報・通信業
情報・通信業でDXに取り組み、成功した2社の事例をご紹介します。
KDDI株式会社
通信事業の大手であるKDDI株式会社では、コロナ後のニューノーマルを見据えてDXによる働き方の大幅な見直しに着手しています。
コロナ禍になる以前の2005年からリモートワークの環境整備には着手していたものの、その一方でオフラインの場でのコミュニケーションの重要性も再認識。そこで新たに働く場の位置付けをハブオフィス、サテライトオフィス、ホームの3つに再定義し、社員のニーズや事業内容によって使い分ける新たな働き方を確立しました。
既に地方に生活の拠点を置くことでオフィスへの出社の回数を減らしながら、ビジネスの成果は出していく、という働き方を目指しています。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では、社内スローガンとして「Smart & Fun!」を掲げ、ITを駆使した働き方改革に取り組んでおり、AIやIoT、RPAといったITツールを導入することで、従来の業務の大幅な効率化を実現しています。社内でもDX推進の風土が根付いており、非エンジニア職員を中心に自主的にITツールについて学習するなど、組織が一丸となったDX化が進んでいるのです。
また社内で得た実績やデータをもとに、DX推進によって4000人工相当の業務をデジタル化する「デジタルワーカー4000プロジェクト」にも取り組んでおり、自社だけでなく、社会や産業、他企業のDX推進をサポートするなど、新規事業の展開も行っています。
サービス
サービス業界でDX推進に取り組み、一定の効果を上げている4つの企業の事例をご紹介します。
Amazon
インターネット通販のAmazonは、現在よりもインターネットが普及していない1993年の創業当初からネット販売の可能性に着眼していました。
当時は書籍販売のみに限定されていましたが、ワンクリックで簡単に商品を購入でき、自宅で受け取れるというサービスは非常に画期的でした。Amazonではさらに、インターネットショッピングを通じて収集したデータを分析し、その結果をもとにリコメンドや在庫調整を行うことで、消費者にとってより利便性の高いサービスへと昇華させました。
また、顧客からの要望やクレームに素早く対応できるよう、チャットの設置と共に、購入履歴からワンタップでオペレーションに電話をかけられる仕組みを導入。
問い合わせ先を調べるという工程を丸ごとカットすることで消費者の手間を省くと同時に、必要な情報を入手した状態で顧客からの電話に対応できるという一石二鳥の効果を実現しています。
Netflix
Netflixはドラマや映画、アニメ、ドキュメンタリーなど幅広いコンテンツを配信するストリーミングサービスとして知られています。同社は1997年創業当時から、インターネットを活用したレンタルビデオビジネスという新しい事業に着目していました。
郵送によるレンタルサービスや、定額でDVDをいくつでも借りられるサブスクリプションサービス、そして現行のインターネットを介したストリーミングサービスと、従来のレンタルビデオの概念をことごとく覆すビジネスモデルを展開。現在は日本を含む世界各国でサービスを提供し、ストリーミングサービス事業者として確かな地位を築いています。
近年は同様のストリーミングサービスを提供する企業が増えてきていますが、Netflixでは既存の映像作品だけでなく自社で制作したオリジナル作品の配信を行うなど、他社との差別化を図ることでシェア率を伸ばしているのです。
Uber
Uberは2009年にアメリカで画期的な配車サービスの提供を開始した会社です。消費者がアプリを通じて配車を依頼すると、一般ドライバーが自家用車を使って消費者のもとを訪れ、目的地まで移送してもらえます。このUberの配車サービスを応用して飲食店の料理の宅配を行うのが、日本でもよく知られている「Uber Eats」です。
少子高齢化の現代日本では、飲食店業界に限らず、どこも人手不足に陥っており、デリバリーに割く人員を確保できないのが大きな課題となっています。Uber Eatsはそのようなドライバー不足を解消する画期的なシステムです。一般ドライバーと契約を締結することで、スムーズかつスピーディな宅配を実現しました。
またコロナ禍に伴う外出制限も重なり、Uber Eatsは急速な普及を遂げ、今や多くの人が日常的に利用するサービスとして定着しています。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリは、誰もが安心して簡単に売り買いを楽しめるフリマアプリ・フリマサービスの提供を行っている会社です。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をコンセプトに、これまで対面販売がメインだったフリーマーケットをインターネット上で展開するという画期的なサービスの提供を実現しました。
多くの一般人が参入するマーケットは無法地帯になりがちです。しかしメルカリでは専門スタッフによる運営体制と、AIを活用した監視システムの構築を通じて常にモニタリングを実施。法や規約に反する出品があった場合は事前検知・早期対応を行うなど、独自の取り組みを行っています。また出品に関しても、AI出品やバーコード出品といったIT技術を取り入れることで、面倒な作業の手間を省き、新規参入者の増加に成功しています。
金融・保険
金融・保険業界でDXに成功した6社の事例をご紹介します。
損害保険ジャパン株式会社
自動車保険や火災保険、地震保険などさまざまな保険商品を取り扱う損害保険ジャパン株式会社では、新たな顧客体験価値の創造を目指すために、独自のデジタル戦略に取り組んでいます。
例えば、AI等のIT技術の活用による生産性の向上、IoTやセンサーを利用した顧客体験価値を向上させる商品・サービスの開発、デジタル技術に慣れ親しんだ若年層向けのマーケティングなどを行っています。特に、AIを活用したサービスに関しては現場への導入が着実に進んでおり、AI音声認識システムや、営業店からバックオフィスへの質問に回答する「教えて!SOMPO」の導入などを行い、保険引受の自動化を始めとする業務の効率化を実現しています。
さらには「LINE通知メッセージ」を活用し、契約者の方へ保険金請求手続きのデジタル化や災害時のお役立ち情報を配信。また、事故が発生した際にご連絡からその後の手続きまでをLINEのみで完結できるサービスを提供しています。これにより、いつでもどこでも、手軽に効率良く適切な手続きができるようになりました。
ソニー損害保険株式会社
自動車保険を提供するソニー損害保険株式会社では、2020年3月に「GOOD DRIVE」と呼ばれる画期的な自動車保険の販売を開始しました。GOOD DRIVEは、スマホで計測した運転特性データから事故リスクを推定し、その結果に基づいて保険料を割り引く「運転特性連動型自動車保険」です。AI等の先進技術を活用することで、事故リスクの低い運転をするドライバーに対し、保険料をキャッシュバックする仕組みになっています。
低リスクドライバーには、キャッシュバックという形でインセンティブを提供します。これによって、ドライバーは意識的に安全運転を心がけるようになり、交通事故の少ない社会の実現に貢献するものです。ソニーグループの従業員を対象に行った実証実験では、事故リスクが低減したというデータも報告されています。
SBIインシュアランスグループ株式会社
SBIグループの保険事業を統括するSBIインシュアランスグループ株式会社は、インターネットを基板とした金融サービスのパイオニアであるSBIグループの一員として、積極的なDX推進に取り組んでいます。
社内のあらゆるデータの利活用とAIの全社的導入を進めると共に、2022年4月からは「AI保険金査定システム」の導入をスタート。
請求に必要な書類をスマホなどで撮影してAI搭載型OCRで読み込むことで、約款に基づく支払基準に該当するか否かを自動で判定するものです。被保険者が請求の判断に迷った時の道しるべとなるのはもちろん、保険会社も条件に該当しない請求手続きの受付を減らすことができるので、業務の効率化につながります。
りそなホールディングス
りそな銀行を始めとする金融機関を傘下に置くりそなホールディングスは、中期経営計画の一環としてデジタルバンキング戦略を打ち立てています。来店不要で、いつでもどこでも簡単・便利に利用できるスマホアプリを中核チャネルとしました。これまで有効な接点を持てなかった顧客へのアプローチや、汲み取ることができなかったニーズの獲得を目指すものです。
スマホアプリは優れたデザインとシンプルな操作性が好評で、グッドデザイン賞の受賞やDX銘柄2020選定など、さまざまな評価を取得。顧客からの評判も上々で、20~30代のユーザーを中心に、新たなターゲット層との接点の確保にも成功しているということです。
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社は、次世代のデジタル金融サービスの提供に積極的に取り組む会社です。具体的には相続診断シミュレーションシステムや資産運用分析ツールによる顧客サービスの向上、業務プロセスの変革などを進めています。
また、エンドユーザー向けに資産管理アプリ「おかねのコンパス」やスマホ専業証券「CHEER証券」を提供。その中で取得するデータを活用したAIによるマーケティング手法を取り入れるなど、画期的なアプローチを行っています。東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社は独創的なDXへの取り組みが評価され、2021年には証券会社で唯一、DX銘柄2021に選定された企業です。
東京センチュリー株式会社
大手総合リース会社である東京センチュリー株式会社は、2020年12月にDX戦略部を設置し、経営基盤の強化策のひとつとしてDX推進を掲げています。一例として、アナログ的な手法で行われてきた事務処理をソフトウェア型のロボットが代行するRPAの導入が進められてきました。
ロボットには得手・不得手があることから、東京センチュリー株式会社では一元管理が可能な「ロボットポータル」サーバーを構築し、テレワーク下でも多くの業務を自動化させることに成功しました。
また海外の現地法人において、オートローンの申込みプロセスを電子化する「ウェブ申込・自動回答システム」を導入し、24時間365日体制の自動審査・即時回答を可能とするサービスを実現しています。
小売業
小売業にてDX推進に成功した2社の事例をご紹介します。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスでは、ポストコロナにフォーカスした新たな商品・サービスの創造・提供を目指すため「守りのDX」と「攻めのDX」をDX推進の柱にしています。守りのDXでは共通インフラ基板の構築によって、グループ全体のコスト削減と、均一のセキュリティ強化の実現を目指すものです。
一方、攻めのDXでは「ラストワンマイルDXプロジェクト」を立ち上げ、ECビジネスのネックであった配送システムの改善に着手。AI配送コントロールによって車両・ドライバーや配送料、配送ルート、受取場所を最適化し、より利便性の高いEC事業の確立に成功しています。
ファミリーマート
ファミリーマートでは、顧客ニーズや人々の働き方の変化などに対応するため、デジタル技術を活用しています。例えば、顧客と商品をセンサーで認識できるカメラを設置した無人決済コンビニの実用化、後払い利用や公共料金の決済などに対応したアプリ「ファミペイ」の提供、大型モニターを通じて情報を発信するデジタルサイネージの導入などです。
さらに他の事業者との協力により、小売業者の購買データに基づいた広告の配信を行うなど、時代に即したマーケティング、ブランディングの手法を採用しています。他にも人型AIアシスタントの活用や遠隔操作ロボットの導入などによる店舗業務の省力化に取り組み、生産性の向上につなげています。
教育業
教育業におけるDX推進の成功事例として、トライグループの取り組みをご紹介します。
トライグループ
家庭教師や個別塾などの教育サービスを提供していることで知られるトライグループでは、時代のニーズに合わせ、オンラインによる指導に力を入れています。
「教室の先生の掛け持ちが多い」「オンデマンド受講で質問できない」といった従来のオンライン授業の不満を払拭するため、オンライン授業専門講師の採用や双方向の授業が可能なダイアログ学習法の導入など、独自の試みを実施。対面とほぼ変わらない環境を整えることで「コロナ禍で通塾が不安」「私生活が忙しくて塾に通えない」などの不満を解消できるオンライン授業を実現、新たな授業スタイルとして広く定着しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のメリット
ここまでさまざまな企業のDX事例をご紹介しました。
DXを推進すると、以下のようなメリットがあります。
業務効率化・生産性向上
新規事業の創出
働き方改革の実現
レガシーシステムからの脱却
まずDXを推進すると、アナログ業務特有の手間が解消され、大幅な業務効率化に繋がります。少ない人手でも業務を効率良く進められるため、生産性がアップし、売上・業績の増加が期待できるのです。
また新たなデジタル技術を導入すると、ビジネスの選択肢が広がり新規事業の創出につながることもあります。他にもテレワークやリモートワークの実現にともなう働き方改革の実現、クラウド活用などによるレガシーシステムからの脱却など、さまざまなメリットがあります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のデメリット
DX推進はさまざまなメリットをもたらす一方で、いくつかの問題点も抱えています。そのひとつがコスト問題で、ITツールやIoT、AIといったデジタル技術を導入するには多額の費用がかかります。導入時の初期コストはもちろん、その後も継続的に維持費が発生するため、導入前に比べると費用の負担が増加するかもしれません。
もちろんDX推進によって生産性が向上すればコスト以上の効果を見込めます。ですが採算が取れるまでにはそれなりの期間が必要になるため、資金力に余裕のない中小企業や零細企業ほどDX化が進みにくいのが難点です。また、DX推進によって従来の業務内容やプロセスに大幅な変更があると、現場が混乱しやすくなります。
現場にいる社員の協力も必要不可欠ですので、あらかじめDXの内容や計画を周知した上で、社内での理解を得る努力を続けることが大切です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を成功させるためのポイント
DX推進を成功させるために押さえておきたいポイントは3つあります。
まず1つ目は社内でビジョンを共有することです。DX推進は日本企業全体の大きな課題ですが、「なぜDX化するのか」「DX化によってどんな成果を期待できるのか」などのビジョンを持たないままDXを進めようとすると、コストや手間ばかりかかって効果を実感できない可能性があります。まずはトップの経営陣を中心にDX推進の意義や目的を明確にし、そこから社内へビジョンを共有、組織一丸となってDX化を進めていくことが大切です。
2つ目は自社の課題や問題を明確にすることです。DXはそもそも企業が抱える課題や問題を解決する術のひとつとして導入を進めていくものなので、自社の現状をきちんと把握し、課題を洗い出すことが重要なポイントになります。そのためには、自社の資源(技術・ノウハウ・人材)などを正確に把握し、どのような変革が求められているのか、そのためにどのくらいの資産を投入できるのか、必要な報を整理しておきましょう。
3つ目はDX推進を任せられる人材を確保することです。DX推進は本業の片手間に行えるものではなく、ITを始めとする専門的な知識や経験を持つ人材が必要となります。近年は人手不足の影響もあり、DX推進を任せられる優秀な人材の確保は困難ですが、自社で人材を確保・育成できるようになれば、将来に亘ってDX化を進めていくことが可能です。
【まとめ】
DXの成功事例を参考に、自社に合ったDX化を進めよう
現代日本では消費者の行動形態の変化や少子高齢化による人手不足、2025年の崖問題などによって企業のDX推進が不可欠になっています。DXの進み具合は企業によって異なりますが、すでに実用レベルでの導入が進んでいる会社も少なくありません。どのような形でDXを進めていくかは企業の方針やビジョンによって異なりますので、今回ご紹介した成功事例を参考に、自社に適したDX推進を目指しましょう。
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