DX推進ガイドラインとは?ガイドラインの構成や重要なポイントを紹介
企業がDXを実現できなければ、2025年以降最大年12兆円の経済損失が発生すると見込まれています。このような事態を避け、企業でDXを進めるために経済産業省より発表された指針がDX推進ガイドラインです。
本記事では、DX推進ガイドラインとは何か、デジタルガバナンス・コード2.0やDXレポートの違いと合わせて解説します。
DX推進ガイドラインとは
2018年、経済産業省は企業のDX導入時に経営者が押さえるべきポイントや、取締役会で確認する際に活用を目的としたガイドラインを公表しました。これが「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」、通称「DX推進ガイドライン」です。
DX推進ガイドラインは「DXを推進するための経営方法や仕組み」と「DXを実現するためITシステムの構築」の2部構成になっています。システム面の刷新だけでなく、経営幹部による企業風土全体の改革を求めるのは、DXが単なる情報技術を活用したIT化とは異なるためです。
以下がDXにより企業に求められる改革です。
業務改善
新たなビジネスモデルの作成
既存システム(レガシーシステム)からの脱却
組織風土改革
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは2004年にエリック・ストルターマン氏が提唱した概念で、AIやビッグテータなどのIT技術を駆使し、より良い社会の実現を目的としています。DXの推進により企業に求められるのは問題解決や競争優位性の確立です。
デジタルガバナンス・コード2.0とは
先に、デジタルガバナンス・コードについて解説します。2020年に企業の自主的なDXの取り組みを促す目的で作成された指標方針であり、内容は経営者に求められる対応のまとめや、DXを踏まえた経営ビジョンの策定方法などが定められています。
しかしながら、「DX推進ガイドライン」と「デジタルガバナンス・コード」は内容に類似点も多く、利用者の利便性を考えれば統合したほうがよいとの意見がありました。
結果として、2022年に「デジタルガバナンス・コード」の改定と「DX推進ガイドライン」の統合という形で発表されたのが「デジタルガバナンス・コード2.0」です。(※)なお、同上では有識者による「コロナ禍を踏まえたデジタル・ガバナンス検討会」の意見も踏まえた変更がなされています。
実際に追加や変更がされた項目は以下のとおりです。
DX認定の認定基準
デジタル人材の育成と確保をDX認定基準に追加
DX銘柄の評価・選定基準
ビジョン・ビジネスモデル、組織づくり・人材・企業文化に関する方策、ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策の3項目で改定
今後DX推進ガイドラインの詳細を調べたいときは「デジタルガバナンス・コード2.0」の確認が必要です。
※出典:「デジタルガバナンス・コード2.0」を策定しました|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913002/20220913002.html (2022-11-17)
DXレポートとは
DXレポートとは2018年5月に行なわれた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」で議論された内容をまとめたもので、正式名称は「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」です。(※)
DXレポートでは、DXを実現するうえで日本企業が抱える課題の整理と分析および対応方法をまとめています。概要をまとめると以下となります。
DXを実現できない場合、2025年以降、最大で年12兆円の経済的損失が発生する可能性がある。(2025年の崖)
ブラックボックス化したシステムは廃棄や刷新をしてDX化を進めれば、2030年には実質GDPを130兆円超に引き上げられる。
DXシナリオの実現に向け、ユーザー企業・ベンダー企業の共有、政府の環境整備を含め進める。
先述した「DX推進ガイドライン」や「デジタルガバナンス・コード2.0」は同レポートのDXの実現方法をより具体化したものです。
※出典:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html (2022-11-17)
DX推進ガイドライン発表の背景
DX推進ガイドライン発表の背景は、企業の競争力維持や強化のみが目的ではありません。先述のDXレポートでも述べられている「2025年の崖問題」の克服が必要なためです。
DXを進めようとする企業の中には、それ以前にレガシーシステム(老朽化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステムのこと)の解決が必要なケースも多くあります。旧システムを抱える企業で課題解決ができなかった場合、発生すると試算されている経済損失は最も多く見積もって年12兆円です。具体的に起こりうる問題を解説します。
デジタル競争の敗北
部門ごとにデータを管理するシステムが独自に構築されていたり、既存のシステムを複雑化したりしている場合、統合や精査が難しく、ビックデータが手元にあっても活かしきれません。
ブラックボックス化したシステムを解決しないままDXを進めても、思うような効果は得られにくく、結果として、新たなビジネスモデルの構築ができず、デジタル競争に敗北してしまいます。
技術的負債の増加
レガシーシステムはシステムの維持管理に多くのコストが必要です。DXレポートの試算では、IT予算の9割以上が同システムの維持・管理に消えると発表しています。技術的負債も増加している状態です。
また、レガシーシステムを使い続ければ維持や管理が困難なだけでなく、将来的には事業そのものの継承も困難になると予想されます。
リスクの上昇
レガシーシステムは保守や運用も困難です。複雑化したシステムでは、システムトラブルの原因の特定が困難となり、サイバー攻撃によるデータ漏洩や、災害時のデータ滅失などのリスクも高まります。
さらに、国内の貴重なIT人材をレガシーシステムの保守や運用に回せば、最先端のデジタル技術を担う人材は不足するのです。新しい技術開発を進められなければ、クラウドベースのサービス開発など世界の主戦場に参戦できず後れをとります。
IT人材の不足
レガシーシステムの多くは古いプログラミング言語が使われているため、若手人材を採用したくても言語がわからず対応できない恐れがあります。また、現在のシステムの担い手は高齢化が進み、いずれは退職を迎えます。
担い手が退職し後継者も育成できなければ、システムの維持は困難です。
各種サポートの終了
レガシーシステムを支えるサポート自体も、いずれサービスの終了を迎えます。直近であれば2020年にWindows7、2024年に固定電話網のPSTN、2025年にSAP ERPが終了するため、これらに依存するシステムは全体の見直しが必要です。
DX推進ガイドラインの構成
DX推進ガイドラインは、「DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2部構成により企業全体のDX化を提言しています。また、経済産業省では、これらの進捗状況を計る方法として「DX推進指標」も提示しているため活用してみましょう。
DX推進のための経営のあり方、仕組み
DX推進のための経営のあり方、仕組みは以下の5部門で構成されます。
ビジョンや経営戦略の提示
経営トップのコミットメント
企業文化や人材育成などの仕組み作り
事業への落とし込み
定量指標での管理
なお、1~4は定性指標で管理します。
1. ビジョンや経営戦略の提示
デジタル技術を駆使して顧客にどのような価値を提供するのか具体的なビジョンの共有が必要です。
2. 経営トップのコミットメント
経営幹部がリーダーシップを取り、組織整備や人材・予算の配分、プロジェクト管理、人事評価の見直しなどの仕組みを明確化する必要があります。
なお、上記1.2.はとくに重要なポイントのため、後ほど詳しく解説します。
3. 企業文化や人材育成などの仕組み作り
DXの推進では、各部門が一体となって進めること、進捗度を計るKPIの設定、人事評価等の評価方法も必要です。また、KPIに則した投資意思決定や予算配分も必要です。
4. 事業への落とし込み
以上の取り組みを経営者自らがリーダーシップを取り、全体に落とし込む必要があります。DXの推進では、従業員だけでなく、株主などのステークホルダーからも反発が上がるケースもあり得ます。そのため、経営者が自信を持ってDXを通じて得られる価値を表明しなければいけません。
5. 定量指標での管理
経営のあり方、仕組みでDXを推進するためには、1~4の定性指標を明確にするだけでなく、定量指標による進捗管理も必要です。指標には通常用いられる経営指標を活用するとよいでしょう。
なお、米国などのDXの先進企業では、各指標を投資家などに公開しているケースもあります。
DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築
DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築は、以下の3部により構成されます。
ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
ガバナンス・体制
定量指標での管理
なお、1~2は定性指標で管理します。
1. ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
「DX推進の枠組みに関する定性指標」で定めたビジョンを実現するためには、既存のシステムにどのような見直しが必要か確認しなければいけません。とくに、レガシーシステムを利用している際は早急に解消が必要です。
2. ガバナンス・体制
DXの推進には多額の先行投資も必要です。そのためには技術的負債を減らし、人材や資金をDXに配分しましょう。また、体制の構築ではベンダーに保守や点検を丸投げせず、連携して取り組むことも大切です。
3. 定量指標での管理
ITシステムの構築でも、予算・人材・データ・スピードなどは定量化して進捗を管理します。
DX推進ガイドラインにおける重要なポイント
企業がDXを進めるには経営層がDXの必要性を理解し積極的に関わっていく必要があります。また、ただ号令をかけるだけでなく、社内全体にビジョンを共有する、DX人材を確保し専門部門を設置する、現場の声を取り入れながら進めるのもポイントです。
経営陣のコミットメント
企業のDXはただIT化を進める訳ではなく、組織整備やプロジェクト管理など、企業文化を含む全体の改革が必要です。
そのためには、まずは経営陣がDX化の必要性を理解し、なぜDX化を行うのか、それによりどのような価値を実現できか理解し納得できるようにします。その上で、権限の譲渡や必要な人事評価の見直しなど、必要な環境整備を進めましょう。
経営戦略・ビジョンの提示
社内でDX化を進めるためには、経営陣だけでなく、全従業員がDXの必要性と達成したいビジョンを共有しなければいけません。また、経営戦略やビジョンの立案はIT環境の整備や人材の確保など、予算設定を行う上でも大切です。
なお、経営戦略の決定時にIT部門が入っていないと、現実的でない方針になる可能性があるため注意しましょう。
DX人材確保
DX人材の確保では、業務部門に精通しDXで何ができるか理解できる人材と、デジタル技術やデータ活用などDX自体に精通した人材、双方の獲得が必要です。
これらの人材が力を合わせてDXに取り組むことで、企業に必要なDX化を進められます。また、ベンダーにシステムを委託する際は、内容を理解し、ベンダーと共同で業務を進められる人材も求められます。
専門部門の設置・推進・サポート体制作り
DXを推進するためには専門部門が必要です。部門を設置する際は、経営・事業部門・IT部門が互いに連携できること、各部門に必要な権限が与えられていることを確認しましょう。
また、自社のリソースのみではDX化が難しいなら、DXコンサルタントなどの外部機関と連携するのもおすすめです。
現場の声を取り入れる
DXの推進では現場での取り組みが不可欠です。とくに、新しいITシステムなどを導入しても使いかたがわからなかったり、現場の状況に則していなかったりすれば、システムは利用されず業務効率は落ちる一方です。
DX化はより良い状態へと変化させなければ意味がありません。推進部門が一方的にDX化を推し進めるのではなく、各部門の声を取り入れ、現場に則したシステムを構築しましょう。
【まとめ】
DX推進ガイドラインに沿って企業のDX化を進めよう
DX推進ガイドラインでは、DX導入時に経営者が押さえるべきポイントをまとめています。経済産業省がDXを進める背景には、レガシーシステムを使い続けたときに予想される「2025年の崖」問題があるためです。
とはいえシステムが複雑であったり、部門間で異なっていたりすれば、DXの推進は困難を極めます。自社のみでの対応が難しいときは、専門家とも協力し、DXを進めるのがおすすめです。
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