DX推進指標とは?活用のメリットや自己診断の提出方法まで解説
DX推進指標とは企業がDXの現状や進捗状況の自己診断の際に用いる指標のことで、2019年に経済産業省より公表されました。なお、自己診断結果を第三者機関に提出すれば、ベンチマークの取得も可能です。
本記事では、DX推進指標とは何か、活用するメリットと注意点、業界平均点などを解説します。
DX推進指標とは?
DX推進指標とは、2019年に経済産業省が発表した、企業がDXの進捗度合を自己診断する際に用いる指標のことです。同指標は、同じく経済産業省が公表した「DXレポート」や「DX推進ガイドライン」の内容を踏まえた指針となっています。
DX推進指標は以下の2つの側面からDXの進捗直度合を確認するものです。
①DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
DX推進の枠組み(定性指標)、DX推進の取組状況(定量指標)
②DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
ITシステム構築の枠組み(定性指標)、ITシステム構築の取組状況(定量指標))
また、上記の「定性指標」は、以下の通りキークエスチョンとサブクエスチョンの2つに分かれ、それぞれ回答する担当者が異なります。
キークエスチョン:経営者自身が回答する質問
サブクエスチョン:経営者が経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門等と議論して回答する質問
定性指標は35項目からなり、そのうち9つのキークエスチョンは経営者自ら回答するのが望ましいとされています。
なお、定性指標の達成状況は次に紹介する6段階の「成熟度」により評価するものです。
DX推進指標の成熟度チェックとは
定性指標の成熟度チェックでは、0~5の6段階評価により自社のDXの状況を理解できます。現状が理解できるため、次の段階に向けた具体的なアクションの立案にも役立ちます。
なお、経済産業省の想定するDXの最終目的は、日本企業がグローバル市場でも通用し勝ち抜けるようになることです。そのため、最終段階のレベル5は国際競争力を高め、デジタル企業に変革した状態としています。
以下は、成熟度レベルの基本的な考え方をまとめたものです。
成熟度レベル |
特性・状態 |
|
レベル0 |
未着手 |
経営者にDXの関心がない。または、あっても具体的取組に至っていない。 |
レベル1 |
一部での散発的実施 |
DXの全社的な取組や戦略が明確ではなく、部門単位での試行や実施に留まっている状態。 【問題点】トップの号令だけで全体的な仕組みがないと、失敗を繰り返すのみとなる。 |
レベル2 |
一部での戦略的実施 |
DXの全社的な取組や戦略があるものの、一部門での推進に留まっている状態。 |
レベル3 |
全社戦略に基づく 部門横断的推進 |
DXの全社的な取組や戦略に基づき部門横断的に推進している状態。 【判断基準】全社で画一的な仕組みとしている訳ではなく、仕組みが明確化され部門横断的に実践されている状態。なお、全社的な取組となっている方が望ましい。 |
レベル4 |
全社戦略に基づく 持続的実施 |
DXの定量的な指標などを用いた持続的な実施をしている状態。 【ポイント】持続的な実施とは、同じ組織や方法を定着させていくだけでなく、判断が誤っていた場合に積極的に改善して継続することも含まれる。 |
レベル5 |
グローバル市場におけるデジタル企業 |
DX化によりデジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできる状態。 【ポイント】レベル4を満たした上で、グローバル市場でも存在感を発揮し、競争上の優位性を確立していること。 |
なお、上記はあくまでも目安であり、項目によっては特性や状態が当てはまらないケースもあります。その場合、次に紹介する「DX推進指標とそのガイダンス」を参照して、それぞれの項目の達成状況を確認します。
DX推進指標とそのガイダンスとは
『「DX推進指標」とそのガイダンス』とは、2019年7月に経済産業省から公表されたDX推進指標の使いかたに関する参考資料です。同資料では、DX推進指標策定の経緯や各指標の概要、使い方、評価時の留意点などが52ページに渡り記載されています。
先述した「成熟度レベル」の判断方法も、「DX推進の枠組み」と「ITシステム構築の枠組み」の双方でより詳細に記載されています。また、第7章では、「DX推進における取締役会の実効性評価項目」のチェックリストも掲載されており、資料としてだけでなく、DXを進める上で必要な項目を網羅的に把握できる仕組みです。
なお、利用頻度の高いDX推進指標本体や、実効性評価項目のチェックリストは、経済産業省のホームページでも別にダウンロードできます。
DX推進指標が必要となった背景
そもそもDXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称で、ビックデータやIoTなどのデジタル技術を活用し、より良い社会の実現を目指す概念です。
企業にDXを推進する際は、ただIT化を進めて業務フローを改善するだけでなく、新たなビジネスモデルの創出や、企業文化自体の改革も含まれます。それにより、国際競争力を高めることが求められています。
なお、経済産業省は日本企業のDX推進状況を確認するため、有識者を交えて現状と課題の分析を行い、2018年にその内容を「DXレポート」にまとめ発表しました。同レポートでは、企業がレガシーシステム(老朽化や肥大化・複雑化によりブラックボックス化したシステムのこと)の問題を解決できずDX化が進まなければ、2025年には最大で年間12兆円の経済損失が発生すると試算しています。
上記の問題を解決し、企業でDXを推進するために発表されたものが「DX推進ガイドライン」や「DX推進指標」です。
DX推進指標により自己診断や業界・業種・企業規模ごとの比較が可能に
企業でDXを進めるためには、経営者がDXの必要性を理解するだけでなく、経営幹部や事業部門、IT部門など関係部門の協力が不可欠です。企業全体で現状の把握と課題への認識を共有した上で、DX推進に向けた動きを進める必要があります。
しかし、現状の多くの日本企業では、以下のような課題が山積しています。
DXで顧客にどのような価値を提供するかのビジョンが不明確
号令をかけるだけで経営層がコミットメントしない
ビジョンを実現するためのITシステムの認識が不十分
これでは、企業でDXを進めることは相当困難です。そこで、DX推進指標を用いた自己診断により、現状把握と目標までのギャップを見える化できるようにしました。これにより、経営者と関係部門で状況やイメージを共有したり、DXの現状や課題などの気付きの機会を得たりできます。
さらに、DX推進指標は業界を問わず利用できる共通指標です。そのため、自社の分析だけでなく、他業界や同業との比較・検討も容易に行なえます。
自己診断の結果を第三者機関に提出すれば、業界・業種・企業規模別に自社のポジションを把握したベンチマークや先行事例の情報提供を受けることも可能です。指標が統一されているため、コンサルタントなどからアドバイスも受けやすくなります。
DX推進指標を活用するメリット
企業でDX推進指標を活用すれば、各部門の垣根を超えてDXのビジョンや取組の共有が可能です。また、やるべきことが明確になるだけでなく、進捗状況の管理もしやすくなるでしょう。全業界共通の指標のため、外部の専門家に相談しやすくなる点もメリットです。
DX推進の全社的共通認識を持てる
DXの推進では、各部門が別々に取組を進めるのではなく、全社共通の戦略に基づき、継続的に取り組む必要があります。特に、全社戦略が明確でないままスタートすると、部門の失敗を次に活かせず、DX推進計画が頓挫する恐れも出てくるのです。
DX推進指標を利用する際は、経営幹部だけでなく、関係部門全体と状況を協議し、現状や課題を明らかにしていきます。そのため、必然的に全社で共通したDXの認識が可能です。定期的に指標の見直しも行なえば、DX推進時の認識や取組の不一致も防止できるでしょう。
取り組むべきアクションが明確になる
DXは多くの企業で前例がないため、取り組むべきアクションを明確にできないケースもあります。そこで、DX推進指標を使った客観的な自己分析により現在の自社の状況が分かり、次のレベルに向けて行うべきアクションが明確になります。
正確な自己分析ができれば、ベンチマーキングや他者の成功事例を参照し、自社に活かせるものを取り入れることも可能です。なお、DX推進指標は数値化できない定性指標だけでなく、予算、人材など定量指標で計る項目もあり、KPIの例も出されています。そのため、漠然とした取組ではなく明確なアクションの立案が可能です。
施策の進捗状況の把握や現状の評価がしやすい
企業がDXを実現するためには、年単位の改革が必要です。そのため、一度の分析やアクションでは意味がなく、ずっと改善し続けなければなりません。
DX推進指標を使えばアクションやKPIの達成状況の確認が可能です。なお、「定性指標」は「成熟度」で確認できるものの、「定量指標」は各社で設定が必要なため注意しましょう。
経済産業省は少なくとも翌年度にDX推進指標の再診断を行い、進捗状況を確認するように推奨しています。そのため、アクションやKPIは短期の目標だけでなく、3カ年、5カ年計画などとしても問題ありません。
アドバイザーを活用しやすい
DX推進指標の診断結果を使えば、コンサルタントなどに相談しやすくなる点もメリットです。それぞれの診断指標の意味が分からなければ、解釈を確認してもよいでしょう。事実、『「DX 推進指標」とそのガイダンス』でも、DX推進指標の診断結果を使ったアドバイザーの活用を提案しています。
DXの相談をするといっても、何をアドバイザーに相談してよいのかさえ判然としないケースも考えられます。DX推進指標を用い、ある程度自社の状態を見える化すれば、アドバイザーへの相談もスムーズに進められるでしょう。
DX推進指標を活用する注意点
DX推進指標は各部門が集まり認識の共有のために使うものです。そのため、担当者が一人で回答する、良い点を取ることを目的とするものではありません。一度回答すれば終わりではなく、翌年度には再診断も必要です。また、DXを現場に導入する際はマニュアルなどを作成し、分かりやすく進めましょう。
担当者が一人で回答するものではない
DX推進指標は、経営者やDX推進部門の担当者が一人で回答し、結果を各部門に回付するものではありません。これでは、各部門のDXに対する認識が把握できません。関係者が集まり自社のDXの現状や将来の展望を議論し、部門ごとの認識を共有することに意味があります。そのため、スタート時点で方法が間違っていると、DXが思うように進まない原因になってしまいます。
点数を取ることが目的とならないようにする
DX推進指標に点数が設けられているのは、自己分析を元に次につながるアクションを明確にして実行するためです。そのため、ただ点数をつけて、自己分析をして終わるものではありません。
さらに、他の業界などと点数を競うものでもないため、良い点数を取ることを目的としてもいけません。点数に囚われず、自社の現状を把握した上で、DXが推進できるアクションにつなげましょう。
DX推進状況を定期的に確認・把握する効果検証体制の整備
DX推進指標は一度回答して終わるものではありません。回答結果を元に翌年度に再診断を行うことで、DXの推進状況の確認や、経年変化の把握に役立ちます。
特に、DXのベースとなるデジタル技術は目まぐるしいスピードで変化するため、DXの推進プランも環境の変化に合わせて作り変えなければなりません。
また、実行したアクションは効果検証を行うことで、成果や改善点が明確になります。定量指標・定性指標ともに検証できる体制も整えてスタートしましょう。
社内向けのマニュアルやサポート体制作り
DXの推進に向けて具体的なアクションが決まったら、サポート体制の整備も必要です。特に、社内でDXを進める場合、現場で利用するシステムやツールの変更が必要になるケースが多いでしょう。
せっかく新しいツールを導入しても、マニュアルやサポート体制が整っていなければ現場で効果的に活用できない可能性があります。さらに、DX部門の判断のみで進めれば、業務の実情に合っていないツールが導入され、業務効率が悪化する恐れもあります。
システムの大きな変更が必要な際は、部門の担当者を交えて、どのような機能が必要か確認しましょう。また、導入時はツールの使い方説明会を開く、社内向けマニュアルを整備する、不明点があったときに相談できる窓口を設置する必要があります。導入後も現場の意見を聴取し、使いづらければ変更を行いましょう。
DX推進指標の自己診断結果をIPAへ提出するまでの流れ
DX推進指標の自己診断結果を中立組織である独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)に提出すれば、ベンチマークの作成が可能です。ここでは、実際に提出する流れを解説します。
「DX推進指標とそのガイダンス」を確認する
DX推進指標の自己診断を行う前に、「DX推進指標とそのガイダンス」を確認し、それぞれの指標の意味や回答方法を確認しましょう。その後、実際の回答に進みます。
「自己診断フォーマットver2.3」に自己診断結果を記載する
自己診断の結果はIPAのホームページ上に掲載されている「自己診断フォーマットver2.3」に入力します。(※)なお、古いフォーマットなどを利用するとIPAに提出できないため注意しましょう。
※出典:DX推進指標 自己診断結果入力サイト|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html (2022-11-18)
「DX推進ポータル」で「自己診断フォーマットver2.3」を提出する
「自己診断フォーマットver2.3」への記述が終わったら、「DX推進ポータル」にログインして診断結果を提出します。提出方法は以下の通りです。(※)
DX推進ポータル画面を開いてgBizIDでログイン。(gBizIDがない場合、作成する。)
「DX推進指標」ボタンをクリック。
遷移後の画面の「自己診断結果提出」の「診断結果を提出する」ボタンをクリック。
提出画面に遷移するため「自己診断フォーマットver2.3」を添付し送信。
連絡事項記載画面に遷移するため必要事項を記載し「提出内容の確認へ」ボタンをクリック。
内容に問題がなければ「提出します」ボタンをクリック。
完了すると申請管理番号が発行され、メールで案内される。
申請管理番号は紛失しないように控えておきましょう。
※出典:DX推進ポータル ログイン|DX推進ポータル
https://dx-portal.ipa.go.jp/i/signin/top?d=%2Fu (2022-11-18)
「DX推進ポータル」からベンチマークを入手する
提出が終わったら、DX推進ポータルより以下の手順でベンチマークを入手できます。
DX推進ポータルにログインし「DX推進指標」の「DX推進指標の手続き」ボタンをクリック。
DX推進指標画面に遷移するため「ベンチマークの入手」の「ベンチマークを入手する」ボタンをクリック。
遷移後のページに入手可能なベンチマークファイルが表示されているため「ダウンロード」をクリック。
なお、DX推進ポータルでは、過去の診断結果の確認など、その他の機能も利用できます。
DX推進指標の平均スコアは?
IPAでは、2021年に提出されたDX推進指標の自己診断結果を元に、平均値などを分析したレポートを発行しています。ここでは、分析対象486件のデータを元にしたDX推進指標の平均スコアを解説します。(※)
※出典:DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2021年版)概要版|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
https://www.ipa.go.jp/files/000100313.pdf (2022-11-18)
全企業の指標の平均値(定性評価分)
全企業の経営視点指標・IT視点指標を含む平均スコアは以下の通りです。
種別 |
全指標 |
経営視点指標 |
IT視点指標 |
全企業の現在値 |
1.95 |
1.90 |
2.00 |
また、全企業の各目標値は以下の通りです。
種別 |
全指標 |
経営視点指標 |
IT視点指標 |
全企業の目標値 |
3.62 |
3.61 |
3.62 |
以上の結果から、多くの企業で現在のDXの成熟度はレベル1「一部での散発的実施」、またはレベル2「一部での戦略的実施」程度と分かります。また、目標とする成熟度はレベル3「全社戦略に基づく部門横断的推進」、または4「全社戦略に基づく持続的実施」のどちらかとする企業が多い状況です。
以上のことから、一部門などでDXは進んでいるものの、全社的な取組が行なえていない企業が多いものと推測できます。
各指標のワースト5項目
全指標の平均値の下位5指標は以下のとおりです。
事業部門における人材(1.56)
評価(1.61)
技術を支える人材(1.63)
バリューチェーンワイド(1.67)
人材育成・確保(1.69)
特に人材面で課題を抱える企業が多くなっています。
【まとめ】
DX推進指標を活用し自社の現状を把握しよう
DX推進指標とは、企業のDXの状態を自己分析する際に利用する指標で、2019年に経済産業省より公表されました。同指標により分析した結果をIPAに提出すると、ベンチマークの取得も可能です。
なお、IPAの発表によると、2021年に自己診断を提出した企業の平均スコアは1.95と低く、DXを支える人材の確保や育成に困難を感じていることも分かりました。
DXの各種支援を行うDIGITAL SHIFT(デジタルシフト)では、DX人材の育成支援や戦略策定、実行支援を通じ、企業のDX化をサポートしています。DX推進指標で自己分析をしたものの、次のアクションに悩みを抱える担当者様は、ぜひ一度、DIGITAL SHIFT(デジタルシフト)までお気軽にご相談ください。