DX事業とは?成功する企業の特徴や事例、成功させるポイントもあわせて紹介
DX事業とはデジタル技術を活用し、顧客に新たな価値の提供を行う仕事のことです。
業務の効率化や新しいビジネスモデルの創造が可能なため、競争力の強化を行う上でもDX事業の推進が求められています。
本記事ではDX事業とは何か、取り組むべきメリットや成功する企業の特徴を成功事例と合わせて解説します。
DX事業とは?
DX事業とはビックデータやIoTなどのデジタル技術を活用して、顧客に新たな価値の提供を行うものです。また業務効率化や生産性の向上なども、DX事業に含まれることもあります。
DXとはデジタルトランスフォーメーショの略称で、デジタル技術を活用しより良い社会の実現を目指す概念です。
諸外国と比べ日本企業のDX事業は遅れていたものの、経済産業省が「DXレポート」の中で発表した「2025年の崖」問題をきっかけに注目を集めるようになりました。同レポートでは複雑化した既存システム(レガシーシステム)から脱却できず、企業のDX化が進まなければ2025年以降、年間で最大12兆円の経済損失が発生すると発表しています。
特にレガシーシステムの問題を放置した企業では、デジタル競争の敗北、業務基盤の継続困難、システムトラブルの多発など多くの損害が発生するとして警鐘を鳴らしているのです。
なお企業でDXを推進できた場合、2030年には実質GDPを130兆円以上引き上げられるとの試算もあります。
以上の背景がありDX事業の推進が求められています。
DX事業を推進するメリット
企業でDX事業を推進すれば、業務効率化や生産性の向上など、既存業務の改善もとデジタル技術を活用した新たな価値の創出が可能となります
業務効率の向上
DX事業ではデジタルツールの活用が不可欠です。企業のDX化では組織文化自体を改革しデジタル企業に変化する必要もあります。
例えば経理部門であれば、ハンコや紙ベースで進める業務文化を改革し、経費精算システムや業務管理システムなどを導入すれば、社内業務全体の業務効率の向上が可能です。
業務のIT化はDX化の一部に含まれるものであり、同一のもではない点に注意しましょう。IT化は業務効率の向上などが中心であり、DX化は組織文化やビジネスモデルを含む抜本的な変革を意味します。
生産性の向上
DX事業の推進では生産性の向上も可能です。ITツールの導入はヒューマンエラーの防止につながるだけでなく、24時間・365日稼働できるためです。従業員には余力が生まれ、新規サービスの創出や既存業務の改善など、人間にしかできない仕事に注力できます。
またデジタルデータを活用すれば、五感での判断が難しい商品や製品の微細な欠陥も数値上で確認できます。製品の開発時点でミスを防止し、不良品の出荷削減も可能です。
時代の変化に対応したビジネスモデルの創出
デジタル技術の発展により、これまでにないビジネスの創出や、さまざまな働き方の実現も可能となっています。
例えば、DX事業の推進によりこれまで対面販売が当たり前であった、家電・賃貸物件・車などもオンラインでの契約が可能となりました。またテレワークを導入し優秀な人材を国内外から採用するなど、時代の変化を活かしたビジネスを展開する企業には、従来以上に事業を進展できるチャンスが広がっています。
DX事業に成功する企業の5つの特徴
DX事業に成功するためには経営層がコミットし、DXで進むべきビジョンを明確にする必要があります。DX事業に成功する企業の5つの特徴を紹介します。
1. 経営層がコミットメントしている
経済産業省が企業のDX推進の指針として発表した「DX推進ガイドライン」(現在は「デジタルガバナンス・コード2.0」に統合)では、DX事業を進めるためには、経営層のコミットメントが不可欠であるとしています。
その理由はDXは組織整備や人事評価制度の変更など、企業全体の変革が必要なため、各部門単独での推進には限りがあるためです。また、経営層がDXの必要性に納得した上で進めないと、事業は進まなくなるとも解説しています。
そのためDX事業を成功させたいなら担当部門に任せきるのではなく、まずは経営層がしっかりコミットメントし、DXビジョンを策定するなどして全社の方向性を示す必要があります。
2. DX化を考慮した経営戦略となっている
DX事業が成功する企業では、経営戦略もDX化を考慮したものに変更しています。例えば策定するKPI指標をDXビジョンが達成でき値に変更すれば、経営戦略も変更が必要となります。
企業のDX化では、変化の激しい市場に瞬時に対応できるよう、意思決定のスピード向上も課題の1つです。
3. 社内に優秀なデジタル人材がいる
DX事業の推進ではデジタル人材の活用は不可欠です。そのためDX事業を成功させるためには、DX人材の採用や育成にある程度の投資が必要です。
とはいえDXに取り掛かったばかりの企業では、DX人材の育成ノウハウどころか、採用計画や人事評価制度も整っていないことが多いでしょう。
そのようなときはコンサルタントなどを活用し、優秀なDX人材を採用したり育成したりする仕組みを構築するのがおすすめです。
4. ツールやシステムの見直しを定期的に行っている
ITツールやシステムはDXを支える基礎部分です。DX事業を成功させられる企業では、DXの推進状況や事業内容・規模に応じて、定期的にシステムを見直し、適したものに変更しています。
またITツールやシステムは日々進歩しており、低コストで使いやすいものが登場しています。使い慣れたシステムであっても、ある程度年数が立ったときは変更も検討しましょう。
なお先述したレガシーシステムを活用している企業では、早急にシステムの見直しが必要です。
5. 企業文化から変えていこうという姿勢を持っている
DX事業の目的はビジネスモデルの変革や立案だけでなく、企業文化や風土自体の改革による競争優位性の確立です。そのためDX事業を成功させた企業では、古くから続く企業文化に固執することなく、柔軟に変化させる姿勢があります。
身近な例では年功序列制度を廃止しジョブ型制度に変更する、テレワークを導入し時間や場所に縛られない働き方を実現するなどです。
このように、企業自体をデジタル企業に改革することで、ビジネス環境の激しい変化にも柔軟に対応できるようになるでしょう。
DX事業成功の6つのポイント
多くの企業でDX事業は前例のない取り組みです。そのため大規模に始めるのではなく、スモールスタートを意識しましょう。DX事業成功を成功に導く6つのポイントを解説します。
1. まずはスモールスタートではじめる
DX人材も育っておらず、ノウハウの蓄積もない状態で大々的にDXを進めようとしても失敗してしまうケースが多いでしょう。DX事業の初期では、スモールスタートを意識して進めましょう。
特に企業のDXは以下のステップで発展するのが一般的です。
デジタイゼーション:DXの第一段階。アナログ業務やデータのデジタル化を行う段階。
デジタライゼーション:DXの第二段階。企業全体の定型業務などに自動化やデジタル化を組み込む段階。
ビジネスモデルの変革(DX):企業がDXに本格的に取り組める段階。ビジネスモデルや企業文化を改革しDXを推進し続ける。
なおDX事業に本格的に参入できる状態であっても、大きく事業を始めるのではなく、MVPなどの実証製品を作成し、コストを押さえて検証してからスタートするとよいでしょう。
2. 定型業務から変革を試みる
DXのスモールスタートの代表例としては、定型業務の変革です。特に先述したデジタイゼーションやデジタライゼーションの段階であれば、経費清算や請求書の作成、問い合わせ対応など、定型業務の変革がおすすめです。
多くの企業が抱える定型業務であれば、ツールやソリューションの種類も豊富で、導入コストもそれほどかかりません。
万が一、改革が失敗しても他のツールに変えるなど軌道修正もできます。成功すれば業務の効率化や人件費の削減にもつながる点もメリットです。
3. DX人材の確保・育成
DX人材は次の2通りの確保と育成が必要です。
【事業部門のDX人材】
市場の動向や顧客情報、業務内容など、自社の事業部門に精通しつつDX技術にも理解のある人材。デジタル技術を業務にどのように活かせるか理解している必要がある。
【技術に精通したDX人材】
ビックデータの活用など、デジタル技術そのものに精通した人材。データサイエンスティストなど必要な資格が明確になっていると、採用活動も進めやすい。
上記2通りの人材がいることで、DXを事業にどのように落とし込むか、具体的な取り組み方法を整えやすくなります。
なおシステムの管理や開発をベンダー企業に任せているなら、自社から具体的な提案ができる程度に精通した人材の確保も求められます。
4. 経営戦略にあわせた取り組みにする
経営戦略の管理にはKPIを用いることが多いでしょう。KPIは通常用いる指標以外に、経済産業省が提示する以下のようなデジタル化を計る指標を用いて管理するのも有効です。
企業全体に占めるデジタルサービスの割合
デジタルサービス全体の利益
デジタルサービスへの投資額
デジタルサービスに従事する従業員数
新サービスを利用する既存顧客の割合
DXのためのトライアル件数
DXのための事業連携数
業務プロセスのデジタル化率
これらの定量指標で管理すれば、DX戦略に合わせた取り組みを策定でき、進捗確認や評価も容易になります。
5. 企業全体でDXに取り組む姿勢をつくる
DXビジョンを策定したら企業全体に周知し、経営層だけでなく各部門や従業員一丸となって取り組む姿勢を作りましょう。
DXを推進する仕組みとしては、挑戦・失敗・学習を通して学ぶ体制を構築する、DXの推進部門には必要な権限を譲渡する、DX事業の人事評価方法の決定をするなども重要です。
DX事業を推進するといっても、従業員に対して十分なビジョンの説明がなかったり、挑戦をサポートする仕組みが不十分であったりすれば、根本的な変革にはつながらないでしょう。
6. 自社や商材の強みを確認する
デジタル技術を活用した事業であっても、ベースとなるのは自社の強みや魅力、商材にほかなりません。ここを見失ってしまうと、DXが競争力を強化するための手段ではなく、デジタル化そのものが目的になってしまうため注意が必要です。
DX事業を成功させるためにも、改めて顧客は自社に何を望んでいるか、商品やサービスのどのような点に魅力を感じているか、商材の強みは何か明確にしましょう。
第三者に客観的な意見を確認するのも効果的です。
DX事業の成功事例5選
ここでは具体的な企業を例にDX事業の成功事例を5つ解説します。
1. 損害保険ジャパン日本興亜株式会社
損害保険ジャパン日本興亜株式会社では、DX事業の一環として、LINEを使った保険金請求の仕組みを導入しました。従来の郵送手続きでは2~3週間かかっていた保険金請求も、最短30分と迅速な給付事務を達成できました。
現在では事故連絡の2割がLINE経由となり、電話では10分かかっていた対応時間も5分程度で完了できるように。
ユーザーの利便性を高めただけでなく、業務の効率化にもつながったDXの好事例です。
2. 三井住友銀行
三井住友銀行の子会社であるSMBC信託銀行では、デジタルマーケティングの導入により、外貨積立の申し込み件数を2倍に増加しました。また多通貨Visaデビット一体型キャッシュカード「GLOBAL PASS」の既存利用者のオンライン切り替え率6割の目標も、初月から達成しています。
以上の成果を上げられた理由は、広告代理店のWeb顧客行動データベースと同行の顧客データベースを組み合わせるなど、データに基づいたターゲットの絞り込みに成功できたためです。
3. トライグループ
「家庭教師のトライ」など複数の教育サービスを展開するトライグループでは、生徒の学習効率の最大化や、演習段階のケアを目的として、以前から映像学習サービスを導入しています。
生徒の学習傾向をAIが分析し苦手科目を克服できる「トライ式AI学習診断」や無料・リモートで映像授業を受けられる「Try IT」を展開。特にTry ITではスマートフォンでの視聴時、本体を振ることで質問ができる仕組みを導入し、実際に目の前の授業を聞いているような臨場感のある顧客体験を提供しています。
4. ソフトバンク株式会社
大手携帯電話会社のソフトバンクグループでは、パートナー企業との協業により、DXを活用した幅広い事業を展開しています。
一例を上げると、水に関する社会問題の解決に向けた分散型の新たな水供給システムの構築(WOTAと協業)。オンライン診療や一般医薬品の購入ができるヘルスケアアプリ「ELPO(ヘルポ)」の開発(ヘルスケアテクノロジーズ株式会社が対応)などです。
「誰一人取り残さない」デジタル社会への貢献をビジョンとしたこれらの取り組みが認められ、デジタル活用の実績のある企業に送られる「DX銘柄」に2年連続で選定されています。(経済産業省と東京証券取引所が選定)
5. テスラ
海外企業のDXの取り組みでは、自動車の販売を行うテスラ社が挙げられます。テスラでは2019年より店舗を廃止し、販売をネットに全面移行しました。
店舗の維持費や営業担当者のコストなどを削減できた結果、平均6%の車体本体価格の引き下げに成功。またオンラインでは試乗ができないという問題を解決するため、購入後7日以内、または走行距離1,000マイル以下であれば全額返金に対応しサービス性を高めています。
以上の大胆なDX改革により、自動車販売の新たな方法を提示しました。
【まとめ】
DX事業を推進して新たなビジネスモデルを創造しよう
DX事業とはデジタル技術を活用し、顧客に新たな価値を提供する仕事のことです。DX事業を進める中で、業務の効率化や生産性の向上といったメリットも享受できます。
DX事業が成功する企業では、経営者がDXにコミットメントしている、優秀なDX人材を抱えているなどの特徴があります。しかしDXに取り掛かったばかりの企業では、思うように進まないケースも多いでしょう。
今回ご紹介したDX事業成功のポイントを参考に自社に合ったDX事業を進めていきましょう。