DXの目的設定はなぜ必要?事例やDX化を成功に導くための方法を紹介
昨今、さまざまな分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を浴びています。今後、デジタル化がさらに進んでいくとされている世の中では、非常に重要な概念です。
ただし、DXを間違って解釈し目的もなく取り入れると、思ったような効果が得られない可能性もあるでしょう。本記事では、DXの概要や定義を解説した上で、DX化の事例や成功に導くための方法をご紹介します。ぜひ最後まで読んで、参考にしてみてください。
そもそもDXとは?
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略語です。日本語に直訳すると「デジタルによる変革」という意味になります。
DXの定義
DXは、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏が提唱した概念です。「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義されています(※)。
※出典:総務省「平成30年版 情報通信白書 | デジタルトランスフォーメーション」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html
(2022-11-29)
その他、経済産業省による定義では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています(※)。
※出典:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」2019年7月
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf(2022-11-29)
つまり、既存の業務やシステムにデジタルを導入するだけではなく、変革のためにデジタルを応用することを、DXと呼びます。
DXが注目される背景
2020年以降、新型コロナウイルス流行の影響によってリモートワークの需要が高まり、DXの必要性が浮き彫りになりました。
一方でDXが注目される背景には「2025年の崖」というものもあります。2025年の崖とは、経済産業省が出したDXレポートに記載されている言葉です。このレポートによると、DXをうまく進められない場合「2025年以降、最大で年間12兆円の損失を出す可能性がある」と予測されています。2025年の崖を克服することができれば、2030年にはGDPを実質130兆円押し上げられると予想されている点も、DXに注目が集まる背景のひとつです(※)。
※出典:経済産業省「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」2018年9月
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
(2022-11-29)
なぜDX成功に目的設定が必要なのか?
先述の通り、DXは「デジタル化を進めていくことを意味する」のではなく、「デジタル化をして変革をしていくこと」です。DXを成功に導くためには、明確な目標設定が必要不可欠です。
どのような施策を行い、何のためにデジタル化を導入するのかといった目的を明確にしなければ、DXを導入しても思ったような効果は得られません。目的設定を行わないままDXを推し進めてしまうと、具体的な施策が分からないだけでなく、デジタル化すること自体が目的化してしまう可能性もあります。
DXの目的設定事例
DXを推し進めていくにあたり、適切な目標設定は、職種や会社の規模によって異なります。
職種別の事例
まずはDXの職種別の事例を、人事・経理、営業・マーケティングに分けて見ていきましょう。
人事・経理
人事部や経理部の場合「日常の業務を軽減すること」をDXの目的に設定するのがおすすめです。これらの部署は個人情報や会社の資金情報などの大事なデータを扱うことが多いですが、デジタル化せず紙ベースで業務をしていると、業務が属人化して重要書類の不備や誤入力が発生しやすくなるでしょう。また紙への押印作業などが必要となり、自動化やテレワーク導入の障壁になってしまう場合があります。
こういった問題を解決することをDXの目的として設定し、ペーパーレスを進めたり、自動化するためのITツールを導入したりするとよいでしょう。
営業・マーケティング
営業・マーケティング部では「顧客心理を理解し、コミュニケーションを取りやすくする」ことを、DXの目的に設定できます。
例えばチャットボットを利用して顧客対応をすると、業務負担を軽減できるだけでなく、顧客にとっては窓口が増えて問い合わせの連絡をしやすくなるため、新規顧客の獲得につながる可能性が増えます。顧客情報を元にユーザーの心理を分析することも可能です。
会社の規模別の事例
次に、DXを導入した会社の企業別の事例を、中小企業と大手企業に分けて見ていきましょう。
中小企業
中小企業の場合、「従業員の負担の軽減」や「業務効率化」をDXの目的に設定するとよいでしょう。
従業員の少ない中小企業では、一人あたりの業務負担が大きくなることも少なくありません。それを改善する目的でDXを進めていけば、従業員の負担軽減につながります。従来の事務業務への負担を軽減できる分、本来時間をかけるべき業務に集中できるので、業務効率化も実現します。
大手企業
大手企業なら、より効率的にデータを収集し、分析することを目的にDXを推進させるのもよいでしょう。
膨大な顧客データを管理し、分析するのは容易ではありません。ところがITツールを導入すれば、各部署間で別々に管理していた顧客データを一元管理できるようになります。その結果、効率的な情報収集をもとに、より詳細な顧客心理の分析を行えるはずです。
DXを推進するためのポイント
DXを推進するためのポイントは、以下の9つです。
経営戦略に沿ってDXを行う
社内に経営戦略とDXの目的を落とし込む
組織責任者の同意を得る
現状把握・課題の把握に必要な情報を集める
DXを推進しやすい社内体制を作る
施策の優先度を決める
スモールスタートで行う
自社にあったITツールを導入する
定期的な見直しを行う
それぞれの項目について解説します。
1.経営戦略に沿ってDXを行う
DXを導入する主な目的は大きく分けて「コストを削減すること」「業務成績を向上させること」の2つです。DXはあくまでも上記の目的を達成するための手段だという認識を持ち、どのような経営をするのかという戦略に沿って、DXを推し進めていくことが必要です。
2.社内に経営戦略とDXの目的を落とし込む
経営戦略とDXの方針が決まったら、それを社内に落とし込むことも重要です。全体に向けて「なぜDXを導入するのか」「DXを導入する目的はなにか」を共有すれば、組織が一丸となって同じ方向性を向けるので、以降の流れもスムーズに進めやすくなると期待できます。
3.組織責任者の同意を得る
トップダウン式にDX化を推進すると、現場の声が反映されておらず、失敗に終わってしまう可能性があります。これから導入しようとしているDXがどのような目的なのかを、組織責任者に説明し、同意を得ておくようにしましょう。
4.現状把握・課題の把握に必要な情報を集める
DX施策を立案するにあたって、現状と課題の把握に必要な情報を集める工程も重要です。
例えば「コスト削減を目指しているが現状は紙でのやり取りが多く、従業員の負担が大きい」という情報を得たケースを考えてみましょう。この場合の課題は、ペーパーレスが進んでおらず、一人あたりにかかるコストが大きいことです。課題解決のためには、ペーパーレスのためのシステム導入やルールづくりをDXの第一歩目として検討する必要があるでしょう。
5.DXを推進しやすい社内体制を作る
DXは一筋縄では行かないことも多く、失敗に終わることもあります。しかしその失敗の責任を問うのではなく、失敗から学ぶ姿勢を持っていれば、組織の雰囲気が新たなことにチャレンジしやすくなりDXの成功へと近づきます。失敗を責めない社内体制を整えることも、DXにおいては必要です。
また、DXにはスピード感も求められます。プロジェクトを進める際、各所に個別に許可を取ったり押印をもらったりするようでは時間がかかってしまいます。
フローの一部を簡素化してシンプルにすることで、スピード感を落とさずにDXを進められる仕組みを整えましょう。
6.施策の優先度を決める
DXにはさまざまな施策がありますが、一度にすべて進めていくことは効率的ではありません。「DX化でより効率的に業務が進むところはどこか」や「コスト削減できるところはないか」などの現状の課題を洗い出し、優先順位の高いものから順に対処すれば、より効果のあるDXを実現できます。
7.スモールスタートで行う
DX化はいきなり大きく動き出してしまうと費用や時間、労力などのコストが大きく、企業にとってのリスクが高くなります。スモールスタートで行うことで、上記のコストを削減できるだけでなく、課題点にアプローチしやすくなるメリットがあります。
小さなトライ&エラーを繰り返すことで、回り道を回避しながら徐々に効果を高めていくことも可能です。スモールスタートでうまくいくことを確認した上で、徐々にコストをかけ、スケールアップしていきましょう。
8.自社にあったITツールを導入する
DX化においては、自社にあったITツールの導入も重要です。このときのポイントは、ITツールに疎い社員でも使いこなせるよう、現場にとって使いやすいものを導入することです。
高度なITツールはDXリテラシーの高い一部の社員にとっては問題ないかもしれませんが、社員によっては使いこなすのが難しい場合もあるでしょう。そうなるとITツールの使用を敬遠し、独断で従来と同じ方法にて業務を進めてしまう可能性もあります。そうなってしまうとDXの目的が果たせず、思ったような効果は得られないため、自社にあったレベルのものを選びましょう。
9.定期的な見直しを行う
DXは定期的な見直しを行い、改善を行うことが欠かせません。導入前と導入後の数値を見比べ、思ったような成果が出ていない場合はその原因を考える必要があります。また成果が出ている場合は再現性を高めていけるように、理由を解明しましょう。
まとめ
そもそもDXとは、デジタル技術を駆使し、既存の業務やシステムに変革をもたらすことです。DXはあくまでも手段に過ぎないので、DXを導入してどのような企業の目的を達成したいのかを明確にする必要があります。
職種や組織規模によっても最適なDXの目的は変わるので、現状の課題を見極めることが重要です。会社単位で進めて行く場合は、経営戦略に沿ってDXを検討し、自社にあったITツールを駆使しながら、スモールスタートで試してみましょう。